「さあ、その棺桶をひきあげて下さい。」
若者が、よいしょとひきあげると、
「さあ、それを背負って下さい。家にもどりましょう。」
若者はすっかりあきらめて、ええ、どうでもなれと思いながら、棺桶を背負って歩きました。
娘の部屋まで棺桶を運んでくると、
「もう用事はないから、あなたはさっきの部屋にゆっくり休んで下さい」
と娘がいいました。
「はい。」
若者はさっきの部屋に休みましたが、どうも隣りの娘の部屋が気になって眠れません。
そこでまた、すかし窓からのぞいてみました。
「あっ。」
娘はふたたび大蛇の姿になっているのです。
シュッ、シュッ、シュッ
シュッ、シュッ、シュッ
フウッ、フウッ、フウッ
奇怪な音が聞こえはじめました。
そして、太い鉄棒で棺桶のふたをこじあけて、中の死体をぴきずりだしました。
見ると、それは白髪ババの死体で、目をむいて口を大きくあいて死んでいます。
「こらまア、どうなることか。」
若者は背すじがこおりながらも、こわいもの見たさで、じっと見ていました。
すると、大蛇がシュッ、シュッ、シュッとうなりながら、出刃包丁を持ってババの死体を切りさいて、ぼきっともいで、食いだしたのです。
大蛇は血のりで真赤になりながら、さもうまそうに食うのです。
「うんにゃ、こアたいへんじゃ。今度こそ逃げんとならん。二階から落ちて砕けても、大蛇に食わるっよいか、ましじゃ。」
こう思った若者が、二階からとびおりようとした瞬間、
「お待ちなさい」
とひと声、若者のからだは後からしっかりと抱きすくめられました。
「何をするか、放せ。」
「まあ待ちなさい。ここまで勇気をふるってきたのはあなた一人です。度胸をすえなさい。わたしは人間です。大蛇の姿はあれは面です。
ほア、このとおりの面です。さあ、あなたもババを食べてみなさい。」
それから娘は若者をとなりの部屋につれて行きました。出刃包丁でババの腕を切りとって、
「さあ、食べなさい」
とさしだしたのです。
「ええ、毒にはなるまい」
と若者は度胸をすえて、ババの腕に食らいつきました。
ところが、どうでしょう。そのおいしいこと。非常に念をいれて作ったお菓子でした。
「ほほほほほ。あっぱれ、あっぱれ。どうです。わかりましたか。あなたの度胸をためしてみたのです。
あなたの度胸にはほれました。どうかわたしの養子になってこの家を守って下さい。」
そこで、若者はめでたく娘の養子となって、その家を盛り立てて、よか世をくらしたということです。
これが屋久島ツアーで人気の屋久島の民話、「ババ食い大蛇」です。